名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)22号 判決 1969年4月05日
名古屋市中区丸の内一四番一八号
原告
坂野勝憲
同市中区南外堀町六丁目一番地
被告
名古屋国税局長
大田満男
同所
被告 名古屋中税務署長
土井実
右被告両名指定代理人
松沢智
同
浜嶋正雄
同
中原勇
同
高崎武義
右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第二二号所得税審査決定取消、同年(行ウ)第二九号課税処分取消各請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一、原告の被告名古屋国税局長に対する訴えを却下する。
二、原告の被告名古屋中税務署長に対する請求を棄却する。
三、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
(原告)
一、被告名古屋国税局長が原告に対し昭和四〇年二月二六日付通知をもつてなした昭和三六、同三七年度の所得税審査裁決を取消す。
二、訴訟費用は被告名古屋国税局長の負担とする。
並びに
一、被告名古屋中税務署長が原告に対し昭和三九年四月二〇日付通知をもつてなした昭和三六年度分更正処分は総所得金額四〇〇〇、〇〇〇円、所得税額四、〇〇〇円を超える部分につき、昭和三七年度分所得金額五、三九七、八五〇円、所得税額一、七五一、七六〇円との更正処分につきいずれもこれを取消す。
二、訴訟費用は被告名古屋中税務署長の負担とする。
との判決を求めた。
(被告)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(請求の原因)
一、原告は肩書地に住居を有する会社役員である。
二、原告は、被告名古屋中税務署長(以下、被告署長と称する)に、昭和三七年三月九日、同三六年度分所得税について、総所得金額四〇〇、〇〇〇円、所得税額四、〇〇〇円、昭和三八年三月一五日同三七年度分所得税について、総所得金額(給与所得)二七九、六〇〇円である旨確定申告した。
三、被告署長は、昭和三九年四月二〇日、昭和三六年度分につき総所得金額四、三一一、八九五円、所得税額一、二六八、二二〇円、過少申告加算額六三、二〇〇円、昭和三七年度分につき総所得金額五、三九七、八五〇円、所得税額一、七五一、七六〇円、過少申告加算税額八七、五五〇円との更正処分及び過少申告加算税賦課決定をなし、原告にその旨通知した。
四、原告はこれを不服として同年五月一六日被告署長に対し異議の申立をした。
五、被告署長は、同年八月一三日右異議の申立を棄却し、原告は同月一八日その旨の通知を受けた。
六、原告は同年九月一〇日被告名古屋国税局長(以下、被告局長と称する)に対し、右棄却につき審査請求をした。
七、被告局長は、昭和四〇年二月二六日、昭和三六年度分につき総所得金額二、三一八、四四七円、所得税額四九七、八四〇円、過少申告加算税額二四、六五〇円、昭和三七年度分につきその請求を棄却する旨の各裁決をなし、原告は昭和四〇年三月一一日その旨の通知を受けた。
八、しかしながら、被告らの右処分は充分な調査にもとづかない違法なものであるからこれが取消しを求めるため本訴に及んだ。
(被告の主張事実に対する答弁)
一、昭和三六年度分の更正処分につき
不動産所得が一二〇、〇〇〇円であること、給与所得が二八〇、〇〇〇円であること、譲渡所得のうち収入金額、特例計算及び特別控除が被告署長主張のとおりであること、原告が被告主張の日に本件土地のうち(1)(2)を取得したことは認めるが、その余は否認する。
原告は被告署長主張のころ本件土地のうち(1)につき一、七四五、五一五円(三・三〇平方米(一坪)当り四八、五〇〇円)同(2)につき四、八三八、一五五円(三・三〇平方米(一坪)当り六八、五〇〇円)合計六、五八三、六七〇円相当額で取得したものであるが、右金額は残地を含んでの合計額であるため実際に日本国有鉄道(以下、単に国鉄という。)が買収した三五二・四六平方米(一〇六・六二坪)の取得額は金四、八九六、〇七〇円である。
すなわち、被告署長は原告が戦前久米鉄工株式会社に対する出資金二〇〇、〇〇〇円の代物弁済として受け取つたというが、原告は同会社に対し、右のほか多額の貸付金並びに短期立替金を有したところ、昭和二三年九月ころより同社の清算事務に入つたがその完了をまたずに昭和二三年一一月六日本件土地の一部を原告名義に移転登記して債権の保全を計つたものである。
二、昭和三七年度の更正処分につき
給与所得が二七九、六〇〇円であること、譲渡所得のうち収入金額、特別控除が被告署長主張のとおりであることは認めるがその余は否認する。
原告は昭和三一年五月三一日訴外橋本一三ほか六名から本件土地のうち(3)の土地を金七、〇〇〇、〇〇〇円相当額で買受けたが、その資金として訴外株式会社十六銀行名古屋支店から当該物件を担保に金六、八五〇、〇〇〇円を借受け、さらに不足分金一五〇、〇〇〇円並びに手数料、登記料等の諸経費を加えて右代金に充当し、同日右物件の所有権移転登記手続を了したうえ、同年六月一三日原告は右十六銀行に対し同行の右債権を担保するため金三、〇〇〇、〇〇〇円を極度額とする根抵当権設定の登記を了した(なお、その極度額が借入金額より低額であつたのは他に有価証券を担保に差入れたからである)。その後、原告は昭和三四年一一月一二日右訴外会社に対し、同会社の訴外東亜産業株式会社に対して有する昭和三二年八月二四日付根抵当権設定契約書にもとづく元本極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする根抵当権につき右土地を追加担保として順位二番の根抵当権を設定した。
右の経緯及び本件土地が名古屋市内の中心地桜通り並びに伏見通りの交叉点に存することを考えると被告署長の主張する取得価格は相当なものではない。なお、被告署長は右土地の取得価格を裏付けるものとして信託銀行が仲介していることを主張するけれども、いかに信用度を重んずる金融機関といえども不動産売買の仲介に関しては右銀行の信用度をもつて論じることはできない。
(原告の主張)
原告の前記譲渡所得については、昭和三六年七月二〇日付直資五八他(例規)「他人の債務の担保に提供されていた資産が担保権の実行により譲渡された場合の所得税または再評価税の取扱いについて」の国税庁長官通達によりまたは、旧所得税法(昭和三七年法律第四四号)第一〇条の六第二項および同法施行規則第一二条の二〇の特例により課税をしない場合に該当する。
一、昭和三六年度分
(一) 原告は訴外東亜産業株式会社と十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫との昭和三三年五月二七日付不動産並びに工場根抵当金銭消費貸借契約書(名古屋法務局古沢出張所受付番号第九、七六五号)にもとづき元本極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする根抵当権として本件土地の(1)(2)を含む物件を提供し、かつ、連帯保証人となつたところ、訴外株式会社十六銀行が昭和三二年八月二四日付根抵当権設定契約書にもとづき前記物件につき第一順位の根抵当権を有していたので、昭和三三年五月二八日前記中小企業金融公庫のためその根抵当権の順位を譲渡し、同日これを承諾したものである。
(二) 本件土地の(1)(2)は、昭和三六年八月三〇日東海道新幹線用地として国鉄に買収され、右買収金額は訴外株式会社十六銀行名古屋支店の原告名義の口座へ振込まれたが、同月三一日同銀行より東亜産業株式会社の債権者である中小企業金融公庫の代理人である訴外株式会社十六銀行に支払われ、同行において同年九月四日右土地を含む前記根抵当権設定契約を一部解除する(甲第四号証の二)とともに同月五日右土地につき根抵当権の登記が抹消された。
(三) 東亜産業株式会社の昭和三六年八月三〇日現在の債務は次のとおりである。
対株式会社十六銀行借入残高
(1) 手形借入 一一、四七〇、〇〇〇円
(2) 中小企業公庫 三、二〇〇、〇〇〇円
(3) 手形割引 一三、四〇三、五〇〇円
計 二八、〇七三、五〇〇円
対株式会社三和銀行名古屋駅前支店
(1) 手形借入 二、〇〇〇、〇〇〇円
(2) 中小企業公庫 二、六〇〇、〇〇〇円
(3) 手形割引 一六、九八一、四九七円
計 二一、五八一、四九七円
右二口計 四九、六五四、九九七円
(四) (三)のとおりであるから原告は東亜産業株式会社に対する求債権の全部についてその行使が明らかにできないのみならず、原告は昭和四二年六月一三日訴外会社に対し金一八、三一五、二二五円の全債権を放棄した。
二、昭和三七年度分
(一) 原告は、前記答弁二に述べたとおり昭和三四年一一月一二日訴外株式会社十六銀行に対し、同会社の訴外東亜産業株式会社に対して有する債権を担保するため根抵当権を設定した際、右債権につき保証契約を締結した。
(二) 訴外株式会社十六銀行は、昭和三七年三月原告に対し右債務の履行を求めたので、原告はやむなく同年五月八日訴外株式会社大森石油店に前記(3)物件を売却し、そのころ右債務の弁済に充当した。
(三) 訴外東亜産業株式会社は昭和三七年五月三〇日現在左記のとおり三銀行に対し債務を有していたので、原告は右債務の履行に伴う求償権の全部の行使ができなかつたのみならず、原告が訴外会社に対して有する全債権を放棄したことは一(四)に述べた通りである。
(1) 十六銀行名古屋支店
手形割引額 一三、八七九、五一五円
(2) 三和銀行名古屋駅前支店
手形割引額 二〇、三九三、三四一円
(3) 岐阜相互銀行名古屋支店
担名借入額 一〇、〇〇〇、〇〇〇円
右合計 四四、二七二、八五七円
(被告の反論に対する認否)
被告反論の二(一)1の<1>ないし<5>並びに2の<1>ないし<3>及び<5>の事実は認めるが2の<4>の事実は否認する。
(本案前の抗弁)
原告は、本訴において、昭和三七年度分所得税について、被告署長の行つた更正処分の取消しと併合して被告局長がなした右処分に対する裁決の取消しを求めているが、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には裁決の取消しの訴えは、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。
また、昭和三六年度分所得税については、原告は被告局長がなした原処分の一部取消しの裁決について取消しを求めているが、原告が審査請求の棄却された部分の裁決を争うとすれば、裁決によつて一部取消しのあつた原処分(残存部分)の取消しの訴えによるべきである。
よつて、本件被告局長に対する訴えは不適法であり棄却されるべきである。
(請求原因事実に対する答弁)
一、請求原因第一項は認める。
二、同第二項のうち、原告が被告署長に、昭和三六年度所得税確定申告をその主張のとおり、昭和三七年度所得税確定申告をそれぞれしたことは認めるが、右昭和三七年度申告につき給与所得金二七九、六〇〇円と申告したことは否認する。
三、同第三ないし第七項は認める。
四、同第八項は争う。
(被告の主張)
一、被告署長が原告に対し昭和三六年度、同三七年度分についてなした更正処分及び過少申告加算税賦課決定の内容は次のとおりである(但し、昭和三六年度分は裁決により変更されたもの。)。
<省略>
<省略>
二、昭和三六年分につき被告署長が課税(裁決により変更された額。以下同じ。)した譲渡所得金額は、次の計算によるものである。
<省略>
(一)(1) 取得時期、取得価額
原告の右収入は、昭和三六年八月三〇日国鉄に新幹線用地として別紙目録記載の土地(以下単に本件土地と称する)のうち(1)(2)を売却したものであるところ、原告は昭和二三年一一月六日訴外久米保成から右土地を取得していることが判明したので、同訴外人につき調査したところ本件土地の(1)(2)の土地の全坪(全体)を原告の出資金二〇〇、〇〇〇円の代物弁済に充てたものであるとのことであつた。
これに対し、原告は右取得時期については認めたが、取得価額は右出資金その他にも債権があり、結局取得価額は前記申立価額になつたとするのみでこれを証する具体的な資料がないので、譲渡価額(買取り対価)を基礎とし財団法人日本不動産研究所発行にかゝる全国市街地価格指数の第七表戦前基準地域別六大都市市街地価格推移指数表の商業地指数により取得時期をもとに当時の価格を次のとおり換算算出したところ(1)の土地は坪当り九〇〇円、(2)の土地は坪当り一、六二〇円をそれぞれ取得価額とするを相当とする。
譲渡時期直近の指数 昭和三六年九月 一二九、四五二 一、〇〇〇
取得時期直近の指数 昭和二三年九月 二、三四七 〇、〇一八
換算率
(1)の土地 50.000×0.018=900円
(2)の土地 90.000×0.018=1.620円
換算率は <省略>
しかしながら本件(1)(2)の譲渡(収用)は、対価補償金とともに残地補償金の支払があつたものであるから、次の計算により取得価額は一四六、八一一円となる。
<省略>
A <省略>
B <省略>
C <省略>
D <省略>
ところで、本件土地(1)(2)の土地の取得は昭和二七年一二月三一日以前のものであるから、譲渡所得計算上の取得価額は資産再評価法(昭和二五、四、二五法律第一一〇号)第九条により昭和二八年一月一日(同法第三条第一項基準日)に再評価をなしたその額である。したがつて、本件土地(1)(2)の土地の譲渡所得の計算上の取得価額となる再評価額は再評価法第二一条第二項の規定により取得時期昭和二三年一一月に応ずる同法別表七の倍数三・二を乗じた四六九、七九五円である。
所得価額 再評価倍数 再評価価額
146,811円×3.2=469,795円
(2) 被告は、念のため一般に用いられる方法として本件土地附近の土地売買実例を調査し、市場比較法に基づいて、通常の場合、本件土地が国鉄に譲渡した時期において、如何なる時価により取引されるかを算出してみたところ、別表添付のとおり本件土地の時価は(1)につき坪当り四七、五〇〇円、(2)につき坪当り六八、〇〇〇円が推計された。従つて、右の時価を基にして前記指数表により換算率(〇・〇一八)を適用すると、本件土地の昭和二三年一一月当時の推計取得価額は、(1)につき坪当り八五五円、(2)につき坪当り一、二二四円となる。故に、これは被告の認定した本件推定取得価額よりも下廻る結果、譲渡価額との差が増えるから、それだけ譲渡所得が増大することになる。従つて、本件の時価を認定した推計計算は、まことに妥当な方法であるというべきであろう。
(二) 措置法第三三条の規定の適用による計算
措置法第三三条の適用については、その計算は次のとおりである。
所得税法第9条第1項第8号により計算した譲渡所得金額 措置法第33条を適用した譲渡所得金額
<省略>
三、昭和三七年分につき被告署長が課税した譲渡所得金額は次の計算によるものである。
<省略>
取得価額および譲渡経費について
右取得価額は、原告が昭和三一年三月五日訴外橋本一三ほか六名から本件土地のうち(3)の土地を金二、二七二、〇〇〇円で(4)同(四)は争う。
(二)(1) 原告主張二の(一)の事実は不知。
(2) 同(二)の事実のうち、原告が昭和三七年五月八日訴外株式会社大森石油店に本件土地のうち(3)の物件を売却したことは認めるが、そのころ原告主張の債務の弁済に充当したとの点は否認し、その余の事実は不知。
(3) 同(三)のうち訴外東亜産業株式会社が昭和三七年五月三〇日当時(1)(2)(3)の債務を有していたことは不知、その余は争う。
二(一) 本件の場合の事実関係につき調査したところつぎのとおりであつた。
1 昭和三六年分では
<1> 本件土地の(1)(2)の土地は、訴外東亜産業株式会社の十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫からの債務の担保に提供されていたが、昭和三六年九月五日にこの根抵当権設定の登記が抹消された。
<2> 右土地上に建つていた右会社所有の工場、建物および機械等は右土地とともに共同担保とされていた。
<3> 本件土地(1)(2)の土地が、国鉄の新幹線用地として収用されるに伴い工場建物および工場施設の移転をよぎなくされ、その結果訴外東亜産業株式会社は、移転補償一三、六九三、四一一円および営業補償一一、二〇二、〇九〇円買受けたものであり(購入価額二、一七五、〇〇〇円、購入時の仲介手数料九七、〇〇〇円)、同土地の譲渡に関する経費は、昭和三七年七月一六日訴外三菱信託銀行名古屋支店に支払つた仲介手数料三九一、五〇〇円であり、取得価額等は右合計金二、六六三、五〇〇円となる。
原告が右土地を取得する際には信憑性の最も強い信託銀行が仲介している。
(原告の主張事実に対する被告の認否及び反論)
一(一)(1) 原告主張一の(一)のうち本件土地の(1)(2)が訴外東亜産業株式会社の十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫からの債務の担保に提供されたことは認めるが、その余の事実は不知。
(2) 同(二)のうち本件土地の(1)(2)が昭和三六年八月三〇日東海道新幹線用地として国鉄に買収され、右買収金額の一部が同月三一日訴外株式会社十六銀行名古屋支店の原告名義の口座に振込まれたこと、同年九月五日右土地につき根抵当権の登記が抹消されたことは認めるが訴外株式会社十六銀行が同月四日右土地を含む原告主張の根抵当権設定契約を一部解除したことは不知、その余の事実は否認する。
(3) 同(三)のうち各(1)(2)の事実は認めるが、各(3)の事実は不知。
(4) 同(四)は争う。
(二)(1) 原告主張二の(一)の事実は不知。
(2) 同(二)の事実のうち、原告が昭和三七年五月八日訴外株式会社大森石油店に本件土地のうち(3)の物件を売却したことは認めるが、そのころ原告主張の債務の弁済に充当したとの点は否認し、その余の事実は不知。
(3) 同(三)のうち訴外東亜産業株式会社が昭和三七年五月三〇日当時(1)(2)(3)の債務を有していたことは不知、その余は争う。
二(一) 本件の場合の事実関係につき調査したところつぎのとおりであつた。
1 昭和三六年分では
<1> 本件土地の(1)(2)の土地は、訴外東亜産業株式会社の十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫からの債務の担保に提供されていたが、昭和三六年九月五日にこの根抵当権設定の登記が抹消された。
<2> 右土地上に建つていた右会社所有の工場、建物および機械等は右土地とともに共同担保とされていた。
<3> 本件土地(1)(2)の土地が、国鉄の新幹線用地として収用されるに伴い工場建物および工場施設の移転をよぎなくされ、その結果訴外東亜産業株式会社は、移転補償一三、六九三、四一一円および営業補償一一、二〇二、〇九〇円の合計二四、八九五、五〇一円を国鉄から受け、この資金をそれぞれ同会社の十六銀行名古屋支店口座に一九、四八〇、〇〇〇円、東海銀行内田橋支店口座に二、五〇〇、〇〇〇円、三和銀行名古屋駅前支店に二、九一五、五〇一円と受入れ右資金により同会社債務の支払いに充てられたものであつた。
<4> 本件土地(1)(2)の土地の収用にかかる補償金(収入金額)八、四四三、五八五円は、十六銀行名古屋支店の原告名義当座預金および三和銀行名古屋駅前支店に預入されたものであつたので、この収入代金の使途を原告について調査したところ、次のとおりであつた。
十六銀行名古屋支店原告名義当座預金出入明細
<省略>
三和銀行名古屋駅前支店原告名義普通預金出入明細
<省略>
<5> さらに訴外東亜産業株式会社について、右に関連する原告との貸借関係を調査したところ、同会社の帳薄(短期借入金勘定)では次のとおりであつた。
短期借入金勘定
<省略>
2 また昭和三七年分では
<1> 本件土地の(3)は、訴外東亜産業株式会社の十六銀行名古屋支店からの債務の担保に提供されていたが、昭和三七年七月五日に右の根抵当権設定の登記が抹消された。
<2> 本件土地(3)の土地の譲渡代金一三、〇五〇、〇〇〇円の内、手付金二、五〇〇円は昭和三七年五月一〇日三和銀行名古屋駅前支店の原告名義普通預金に預入されており、残金一〇、五五〇、〇〇〇円は同年七月一六日三菱信託銀行名古屋支店の原告名義普通預金に預入されていた。
<3> 右代金の使途について調査したところ、三和銀行名古屋駅前支店に預入した二、五〇〇、〇〇〇円は昭和三七年五月一四日に訴外東亜産業株式会社に貸付けられ、同会社はこれを同銀行の定期預金としたものであつた。これは前記の昭和三六年分の収入金額の使途明細の三和銀行名古屋駅前支店の普通預金帳および次に述べる訴外東亜産業株式会社の短期借入金勘定帳によつて明らかである。また、残金一〇、五五〇、〇〇〇円については、次のとおりであつた。
三菱信託銀行名古屋支店原告名義普通預金出入明細
<省略>
<4> 訴外東亜産業株式会社について、右に関連する原告との貸借関係を調査したところ同会社の帳薄(短期借入金勘定)では次のとおりであつた。
短期借入金勘定
<省略>
<5> 訴外東亜産業株式会社の営業状態は、毎期欠損を続けているが、しかし、同会社は従来の事業(木材販売)の外に、食品業(粉末ジユース)をも兼業し再興を期している状況にあつた。
(二) 本件における原告の場合は、前記の銀行預金出入明細および訴外東亜産業株式会社の帳薄(短期借入金勘定)により述べたとおり、昭和三六年分ならびに昭和三七年分ともその譲渡代金が、原告の保証債務に充てられたものではなく、一部は原告の生活費に費消されたが、大部分は訴外東亜産業株式会社の運転資金として貸付けられているものである。そして同会社はこれを原告よりの短期借入金として経理しており、しかも原告との貸借関係は短期のため頻繁に出入(借入、返済)がなされている実情にある。
また、同会社の債務も、同会社が国鉄より受取つた補償金にて弁済され、担保が解除されている。
したがつて本件係争両年分の譲渡所得については、保証債務履行のために譲渡されたものではなく、昭和三六年七月二〇日直資五八他(例規)の国税庁長官通達、または旧所得税法第十条の六第二項の規定による譲渡所得の計算の特例を行なう場合に該当しないものであることは明らかであるから、一般の例により譲渡所得を計算し課税した被告の処分はなんら違法ではない。
(三) なお、(1)(2)の土地については、国鉄の強制買収にかゝるものであつて、その資産が担保権の実行により譲渡されたものではないから本件譲渡は「特例」には該当しない。
三(一) 本件は前記訴外会社が現に事業継続中である以上は原告が未だ保証債務の求償権の行使ができない場合に該らない。
すなわち、原告は同訴外会社に運転資金として貸付けた金員を少額宛であるが現実に返済を受けており、また同訴外会社の営業状態は、昭和四〇年度において黒字決算となり、今後益々発展し、再興を期している状態にあるのであるから、原告において、現に存続する右訴外会社に対し、保証債務履行のための求償権として右金員を請求する権利は未だ存在する。
したがつて、原告の求償権が行使し得ない場合とはいえない。
(二) 原告は、原告の有していた訴外東亜産業株式会社に対する貸金債権の放棄(甲第一〇号証)により譲渡所得は消滅したと主張するが、右主張は、旧所得税法第一〇条の六第二項の「求償権の行使ができないこととなつたとき」に該当しないので失当である。
原告の提出された甲第一〇号証によれば、原告自身の意思に基いて債権の放棄がなされたものと認められたので、従つて、その実質は相手方に対する経済的利益の供与と認められるべき筋合のものであるから、かかる場合は本条の「求償権の行使ができないこととなつたとき」にはあたらない。
すなわち、「求償権の行使ができないこととなつたとき」とは、主たる債務者の客観的資力の状態により、支払能力がなくなつたと認められて、その求償権の行使ができないこととなつた場合をいうのであつて、保証債務を履行した保証人が自己の意思により債権を放棄したその行為のみをもつて「求償権の行使ができないこととなつた」とはいえないのである。
(三) しかも、仮に「求償権の行使ができないこととなつた」と認められる事実が発生した場合においても、右の事由が生じた日から一ケ月以内(現行所得税法は二ケ月以内(第一五二条))に更正請求をしなければならないとされているのである。
以上の理由から原告の主張は失当である。
第三、証拠関係
(原告)
甲第一、第二号証の各一、二、第三号証の一ないし四、第四、第五号証の各一ないし三、第六号証の一ないし六、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし六、第一〇ないし第一四号証、第一五号証の一ないし四、第一六号証の一ないし三、第一七、第一八号証を提出し、証人佐藤茂敏の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第四号証、第五号証及び第七号証の各一、二、第一六ないし第一八号証の各成立を認め、乙第八号証の成立は否認し、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。
(被告)
乙第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八ないし第一九号証を提出し、証人小久保祐、同加藤光夫、同伊藤稔雄、同浜嶋正雄、同猿渡敬三の各証言を援用し、甲第三号証の一ないし四、第四号証及び第六号証の各一ないし三の各成立については官署作成部分のみ認め、その余は不知、第一一、第一二号証の各成立については官署作成部分のみ認め、第六号証の六、第九号証の一ないし六、第一三号証、第一五号証の一ないし四の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
第一、原告の被告局長に対する訴えについて、
原告は、本訴において、昭和三六、同三七年度分所得税について、被告署長の行つた更正処分の取消しと併合して被告局長が行つた右処分に対する裁決(但し、昭和三六年度分は審査請求の棄却された部分)の取消しを求めているので、この点について判断するに、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができないところ(なお、昭和三六年度分については、裁決によつて一部取消し(変更)のあつた原処分(残存部分)の取消しの訴えによるべきであり、この点については、全部棄却の裁決の場合と同様である。)、原告の右訴えが処分の違法を理由としていることはその請求の原因に照らし明らかであるから、右訴えは不適法として却下すべきものである。
第二、原告の被告署長に対する訴えについて、
一、原告が、被告署長に昭和三七年三月九日、同三六年度分所得税について(総所得金額四〇〇、〇〇〇円、所得税額四、〇〇〇円)、同三八年三月一五日、同三七年度分所得税についてそれぞれ確定申告をしたこと、被告署長が、同三九年四月二〇日、同三六年度分につき総所得金額四、三一一、八九五円、所得税額一、二六八、二二〇円、過少申告加算税額六三、二〇〇円、同三七年度分につき総所得金額五、三九七、八五〇円、所得税額一、七五一、七六〇円、過少申告加算税額八七、五五〇円との更正処分及び過少申告加算税賦課決定をなし、原告にその旨通知したこと、原告が、これを不服として同年五月一六日被告署長に対し異議の申立をなしたこと、被告署長が、同年八月一三日、右異議の申立を棄却し、原告が同月一八日、その旨の通知を受けたこと、原告が同年九月一〇日、被告局長に対し、右棄却につき審査請求をしたこと、被告局長が同四〇年二月二六日、同三六年度分につき総所得金額二、三一八、四四七円、所得税額四九七、八四〇円、過少申告加算税額二四、六五〇円、同三七年度分につきその請求を棄却する旨の各裁決をなし、原告が同四〇年三月一一日その旨の通知を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。
二、被告署長が原告に対し、昭和三六年度分についてなした前記処分(但し、前記裁決により一部取消し(変更)されたもの)の内容を検討する。
(一) 原告の不動産所得(一二〇、〇〇〇円)、給与所得(二八〇、〇〇〇円)、並びに譲渡所得のうち収入金額(八、四四三、五八五円)、特例計算及び特別控除が被告主張のとおりであること、原告が被告主張の日に本件土地のうち(1)(2)を取得したことは当事者間に争いがない。
そこで、被告主張の右土地の取得価額四六九、七九五円の適否について判断する。
成立に争いのない乙第一号証、証人浜嶋正雄の証言及び同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第九ないし第一五号証、証人小久保祐の証言を綜合すると、原告は被告主張のころ、国鉄に新幹線用地として本件土地のうち(1)(2)を三・三〇平方米(一坪)当りそれぞれ金五〇、〇〇〇円、金九〇、〇〇〇円で売却したこと、被告は右譲渡所得の調査をしたところ、原告が前記昭和二三年一一月六日訴外久米保成より右(1)(2)の土地を含む二筆の土地を取得したものであることが判明したが、その取得価額については具体的な資料を入手しえなかつたので、右譲渡価額を基礎にして財団法人日本不動産研究所発行の全国市街地価格指数の第七表戦前基準地域別六大都市市街地価格推移指数表(乙第一号証)の商業地指数により右取得当時の価格を換算算出すると、(1)の土地は三・三〇平方米(一坪)当り金九〇〇円、(2)の土地は三・三〇平方米(一坪)当り金一、六二〇円となること、被告は本件土地(1)(2)附近の土地の売買実例を調査し、市場比較法に基づいて、右譲渡時期における時価を推計したところ、(1)につき三・三〇平方米(一坪)当り約金四七、〇〇〇円、(2)につき三・三〇平方米(一坪)当り金六八、〇〇〇円であつて、右時価は原告の譲渡価額を下廻るものであつたことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。
以上認定したところによれば、(1)の土地は三・三〇平方米(一坪)当り九〇〇円、(2)の土地は三・三〇平方米(一坪)当り一、六二〇円をそれぞれ取得価額とするのが相当と認められるから、本件土地のうち(1)(2)の取得価額は一四六、八一一円となる。
ところで、右土地の取得時期が昭和二七年一二月三一日以前であることは明らかであるから、譲渡所得計算上の取得価額は、資産再評価法(同二五年四月二五日法律第一一〇号)第九条により同二八年一月一日(同法第三条第一項基準日)に再評価をなしたその額であるところ、再評価法第二一条第二項の規定により、取得時期同二三年一一月に応ずる同法別表七の倍数三・二を乗じた金四六九、七九五円と認めるべきである。
原告は、本件土地(1)(2)を含む二筆の全土地を六、五八三、六七〇円相当額(右(1)につき三・三〇平方米当り四八、五〇〇円、(2)につき三・三〇平方米当り六八、五〇〇円)で取得し、原告が当時久米鉄工株式会社に対する出資金二〇〇、〇〇〇円のほか多額の貸付金、短期立替金を有したので、これをもつて右代金に充当した旨主張し、原告本人尋問の結果は右主張に副うけれども、右代金に充当したとして原告の主張するもののうち、出資金二〇〇、〇〇〇円(この点は前掲証人小久保の証言に照らし首肯しうる。)を除き、その他の債権については具体的な立証がないので、右主張はにわかに採用できない。
(二) 原告は前記(一)の譲渡所得については、昭和三六年七月二〇日付直資五八他(例規)「他人の債務の担保に提供された資産が想保権の実行により譲渡された場合の所得税または再評価税の取扱いについて」の国税庁長官通達により課税しない場合に該当する旨主張するので、この点について判断する。
本件(1)(2)の土地が、訴外東亜産業株式会社の十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫からの債務の担保に提供されていたが、昭和三六年九月五日この根抵当権設定の登記が抹消されたこと、右土地が同年八月三〇日東海道新幹線用地として国鉄に買収され、右買収金額の一部が、同月三一日、十六銀行名古屋支店の原告名義の口座に振込まれたことはいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に原告本人尋問の結果及び右により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二(但し、右書面の成立は官署作成部分について争いがない。)によると、原告は訴外東亜産業株式会社と十六銀行名古屋支店の取扱代理貸付になる中小企業金融公庫との昭和三三年五月二七日付不動産並びに工場根抵当金銭消費貸借契約書(名古屋法務局古沢出張所受付番号第九七六五号)にもとづき元本極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする根抵当権として本件土地の(1)(2)を含む物件を提供し、かつ、連帯保証人となつたところ、訴外株式会社十六銀行が昭和三二年八月二四日付根抵当権設定契約書にもとづき前記物件につき第一順位の根抵当権を有していたので、昭和三三年五月二八日前記中小企業金融公庫のためその根抵当権の順位を譲渡し、同日これを承諾したこと、右当事者間に名古屋法務局古沢出張所同日受付第九七六六号をもつてその旨の登記がなされたこと、本件土地の(1)(2)が同三六年八月三〇日東海道新幹線用地として国鉄に買収され、右買収金額の一部(後記認定のとおり六、五二〇、〇〇〇円)が同月三一日十六銀行名古屋支店の原告名義の口座に振込まれたこと、同年九月五日原告と中小企業金融公庫との前記根抵当権設定の登記が抹消されたこと、以上の事実を認めることができるけれども、さらに進んで、右認定の買収金額の一部が、前記中小企業金融公庫に対して有する東亜産業株式会社の債務に充当されたことについては本件全証拠によるもこれを認めるにたりない。
かえつて、当事者間に争いのない被告反論二(一)の<3>ないし<5>記載の事実に、成立に争いのない乙第四号証、官署作成部分に争いがなく、かつ、その余の争いのある部分については原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、前掲証人小久保祐の証言、証人猿渡敬三の証言、同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第三号証を綜合すると、本件土地(1)(2)が国鉄の新幹線用地として収用されるにともない、訴外東亜産業株式会社は、右土地上に有する工場建物および工場施設の移転をよぎなくされ、昭和三六年八月三一日、国鉄より移転補償一三、六九三、四一一円および営業補償一一、二〇二、〇九〇円の合計二四、八九五、五〇一円を受領するに当り、訴外会社の十六銀行名古屋支店口座に右のうち一九、四八〇、〇〇〇円を受入れたものであるところ、同月三〇日現在右訴外会社が同支店において、手形貸付(単名手形)による債務金一一、四七〇、〇〇〇円、中小企業金融公庫に対する債務(代理貸付によるもの)金三、〇〇〇、〇〇〇円(前掲乙第三号証によれば三、二〇〇、〇〇〇円と記載されているが、同乙第四号証によれば右のうち二〇〇、〇〇〇円については同月二五日既に支払済である。)を有した(但し、そのほかに商業手形による割引債務を有するが、この点は除く。)ので、前記受入金をもつて同月三一日後者の債務に、同年九月一日前者の債務の弁済にあてたものであること、また、本件土地(1)(2)の買収金八、四四三、五八五円(そのうち、六、五二〇、〇〇〇円については、同年八月三一日に十六銀行名古屋支店の、残額一、九二三、五八五円については、昭和三七年三月六日、三和銀行名古屋駅前支店の各原告名義普通預金口座に受入れられている。)については、原告がその受入れのころ、その生活費として費消しあるいは、右東亜産業株式会社に運転資金として貸付けたものであることが認められる。
ところで、前記通達によれば、「個人の有する資産について、『<1>他人の債務を担保するための抵当権、質権または譲渡担保権が設定されている場合において、<2>主たる債務者が資力を喪失してその債務の弁済をすることができないためその資産が担保権の実行により譲渡され、<3>その譲渡代金の全部がその債務の弁済にあてられたときは、<4>その弁済により生ずる主たる債務者に対する求償権の全部について、その行使が明らかにできないと認められるときに限り、』その資産にかかる譲渡所得についての所得税については、課税しないことに取扱うこと。」とされている。
これは、右<1>ないし<4>の要件を具備する場合には、譲渡人に事実上所得が伴わないのであるから、その譲渡所得についての所得税を賦課することが酷であるという配慮によるものと解される。
本件についてみるに、原告の前記(一)記載の譲渡所得については、右通達の要件のうち<1>は充足しているけれども<3>を具備しないことは明らかであるから、その余の要件について判断するまでもなく、右通達により課税しない場合に該当するものと言うことはできないから、原告の主張は採用できない。
三、次に、被告署長が原告に対し、昭和三七年度分についてなした前記賦課処分の内容を検討する。
(一) 原告の給与所得が二七九、六〇〇円であること、譲渡所得のうち収入金額(一三、〇五〇、〇〇〇円)、特別控除が被告主張のとおりであること、原告が昭和三一年五月三一日訴外橋本一三ほか六名から本件土地のうち(3)の土地を取得したことはいずれも当事者間に争いがない。
そこで、被告主張の右(3)の土地の取得価額等二、六六三、五〇〇円の適否につき判断する。
成立に争いのない甲第六号証の五、前掲証人浜嶋正雄の証言、同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第八号証、証人加藤光夫の証言によると、原告は前記日時に訴外橋本一三ほか六名から右(3)の土地を金二、二七二、〇〇〇円(但し、仲介手数料九七、〇〇〇円を含む)で買受けたものであり、右土地の前記譲渡に関し、昭和三七年七月一六日訴外三菱信託銀行名古屋支店に仲介手数料三九一、五〇〇円を支払つたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はにわかに採用できず、右尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一ないし四によつても未だ右認定を覆すにたりず、他に右認定を動かすにたりる証拠はない。
したがつて、被告の前記取得額等の主張は正当と認められる。
(二) 原告は、前記(一)の譲渡所得については、旧所得税法第一〇条の六第二項および同法施行規則第一二条の二〇の特例により課税しない場合に該当する旨主張するので、この点につき判断する。
官署作成部分に争いがなく、かつ、その余の争いのある部分については原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一及び三、四及び原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和三四年一一月一二日十六銀行に対し、同銀行の訴外東亜産業株式会社に対して有する同三二年八月二四日付根抵当権設定契約書にもとづく元本極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円とする根抵当権につき、本件土地(3)を追加担保として順位二番の根抵当権を設定するとともに、右継続的取引によつて生じる債権につき保証契約を締結したこと、同三七年五月八日訴外大森石油店に右(3)の土地を売却したこと(右売却の事実は当事者間に争いがない)は認められるけれども、さらに進んで、右売却代金を東亜産業株式会社の十六銀行に対して有する右債務の弁済に充当したとの点については、右主張に副う原告本人尋問の結果は後掲各証拠に照らしにわかに採用できず、他にこれを認めるにたりる証拠はない。
かえつて、当事者間に争いのない被告反論二(一)2の<1>ないし<3>の事実に、前掲猿渡敬三の証言、同証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証、証人伊藤稔雄の証言、同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二号証を綜合すると、原告と十六銀行との右(3)の土地についての根抵当権設定契約は、昭和三七年六月三〇日解約され、同年七月五日、右根抵当権設定の登記が抹消されるに至つたが、これは、原告の要請により十六銀行との間に同銀行の訴外東亜産業株式会社に対して有する融資関係を縮小する協議ができたことによるものであると、右土地(3)の譲渡代金一三、〇五〇、〇〇〇円のうち、手付金二、五〇〇、〇〇〇円は、同年五月一〇日、三和銀行名古屋駅前支店の原告名義普通預金に預入され、同月一四日東亜産業株式会社に貸付けられ、同会社はこれを同銀行の定期預金にしたこと、残額一〇、五五〇、〇〇〇円は同年七月一六日三菱信託銀行名古屋支店の原告名義普通預金に預入され、その後において被告反論二(一)2の<3><4>記載のごとく、一部は原告の生活費として費消され、多くは、東亜産業株式会社の運転資金として貸付けられたものであることが認められる。
ところで、旧所得税法第一〇条の六第二項によれば、「<1>保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合において、<2>当該履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたとき」は、その行使することができないこととなつた部分の金額に対する所得の金額は、当該所得の生じた年分の所得の計算上、なかつたものとみなす旨規定している。
右規定の趣旨は、前記二(二)の通達についてみたところと同趣旨と解される。
本件についてみるに、原告の前記(一)記載の譲渡所得については、右<1>の要件を具備しないことは明らかであるから、その余の要件の有無を判断するまでもなく、原告の前記主張は採用することができない。
四、以上の次第であるから、右認定したところに所得税法を適用して税額の計算をすると被告の主張は正当と認められるから、原告の被告に対する本訴請求は理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田正武 裁判官 日高千之 裁判官 八束和広)
物件目録
<省略>
右は正本である
昭和四四年四月一四日
同庁
裁判所書記官 倉橋良博